一口メモ

◎薬疹あれこれ

◎帯状疱疹について

◎ハンセン病について

◎足白癬(水虫)について


『水沢医師会報』1996年7月号掲載より

◎ 薬疹あれこれ

 数年前にはソリブジン、今や薬害AIDSが騒がれて、薬を飲んで何か異常が起こると直ぐに薬が、さらにはそれを投与した医師が悪者にされかねない昨今である。 読者も、多かれ少なかれ、この“被害者”になったことと思う。

 とりわけ皮膚科医は「薬疹」を自らのテリトリーとしている関係上、薬害とは縁が深い。 もっとも初めから「薬疹」と診断できる場合はむしろ少ない。 例えば全身にびまん性の発疹が出ている場合、各々の感染症特有の発疹の性状(個疹、分布、経過など)をみない非典型的な時などは、薬疹を念頭に置きつつ「中毒疹」として、まず疑わしい薬剤を中止して、抗ヒスタミン剤の内服やステロイド軟膏の外用でひたすら祈るような気持ちで発疹の退くのを待っている。 あわよく貼付試験や皮内反応(重篤な場合はこれも危険を伴う)、場合によってはDLST、さらには内服テスト(実際には施行不可能の方が多い)で陽性反応がでれば、勝利品の如くに「薬疹」の冠を頂けるのである。 科学者でありたいとの願望からすれば、このような栄冠の下で“アレルギー証明証”を記したいものだと思っている(実際にはこれらの努力が報われないことも多い)

 因みに薬疹が極めて疑わしくても上記試験で反応が出ない場合、「感染症プラス薬疹」即ち、感染症などの免疫賦活状態下で薬剤が反応して発疹の出現をみたと一応は解釈せれている。

 もちろん発疹の性状から薬疹がほぼ確定的で尚且、進行性(特にTEN型と呼ばれる重症型)であれば、入院管理下で、迷わずステロイドの全身投与を行っている。 これは当に短期決戦のサバイバル勝負である。

 薬疹は軽症から重症まで、また発疹の形態や原因薬剤にしても多種多様である。 「極論すれば、すべての薬剤に薬疹(薬害)を起こしうる可能性がある」としばしば患者さんに言ってはいるが、薬疹の患者さんを前にして、それを証明することは結構難しい。 そして、訴訟社会を前に、インフォームド・コンセンサスと理念で理解してはいるものの、実際の患者さんの個性やインテリジェンスに合わせて納得させることは本当に難しい。 いっそ医学部の講座にも「話し方講座」を作ってみてはどうだろうか。


『胆江日日新聞』2000年8月5日掲載より

◎ 帯状疱疹について

 水ぼうそうと同じウイルスでおこる帯状疱疹は、前者が主として小児の全身に小さな水ぶくれがたくさん出来るのに対して、大人の身体の片側(身体の縦半分に割って、そのどちらか)に帯状に並んで集中して、水ぶくれが出来るのが特徴です。 しばしば神経痛のような強い痛みを伴います。

 発疹(ほっしん)が出てから三週間ほどで治りはしますが、高齢であったり、痛みが強かったり、発疹の部位が顔や頭、腕や脚だったり、発疹の広がりが広かったりすると痛みや障害が残りやすくなります。

 激しい痛みが残りやすそうな人には、特に抗ウイルス剤という特別な薬を、出来るだけ早めに注射したり、服用したり、あるいは入院の必要な場合もあります。 また、疲れやストレス、内臓の病気のために抵抗力が落ちて発症するため、安静にした上で内臓の検査を受けておくことも大切です。

 初期の手当てが、その後の病気の治り方を大きく左右しますので、怪しいと思ったら信頼する医師に早速相談してください。

 なお、水ぼうそうにかかっていない人が身近にいますと、水ぼうそうの形でうつすこともあります。


胆江日日新聞』2001年6月9日掲載より

◎ ハンセン病について

 数週間前に話題になったハンセン病訴訟。 テレビに映し出された元患者さんの姿は皮膚科医としてある種の衝撃でした。 それは、一つには皮膚病のもつ意味の大きさであり、もう一つは患者さんにとっての病気は過去も現在もなく現実のみがついて回るということでした。

 皮膚の病気は、内臓の病気と異なり、常に目にするところに病気があり、治療の良しあしもすぐわかることに特徴があります。 さらに、男性も美容整形を希望する昨今、心の美しさよりもまず見た目の良しあしが何よりも優先され、これらは精神的な面にも大きく影響してきます。 ハンセン病は、もともと感染しにくく、また治療により治っていく病気でありながら、古くから偏見や差別があったのも、そこにも一因があり、皮膚科医の責任の重大さをあらためて感じさせられました。

 そして、テレビに映し出された元患者さんの姿の病気の状態は、瘢痕(はんこん)と言って、いわば傷あとです。 私は大学院時代、肉芽腫反応といって、身体にバイ菌を含めた異物が入ったときの反応を研究していました。 ハンセン病の原因も特殊なバイ菌の一種で、身体の抵抗力の状況によって種々の特徴的な肉芽腫反応を、とりわけ顔や手・足などの皮膚と神経に示すことで有名で、瘢痕とはその反応の最終的な成れの果ての状態です。 しかし、何分わが国でハンセン病に新しく発病される患者さんはほとんどなく、また検査法や治療法もおおむね確立していることもあって、私の研究ではハンセン病は知識だけのものでありました。 ハンセン病は、私たちの世代の医者にとって、実は過去の病気くらいにしか受け止めていず、事実わが国でハンセン病を専門とする医師の減少を、専門家の間で大変憂慮されているくらいです。

 このような研究面や医療面での問題の如何にかかわらず、かつて必要以上に恐れられ、根こそぎ隔離され、阻害された人たちは、現に生きており、身体の傷跡と同じように、精神的にも人生そのものも傷を負っていたのです。 ハンセン病にかかわらず、病気になるということは、大小深浅はあるものの、その人の人生に傷を残し、たとえ病気が治った後でもその人にとっては常に現実の傷となって残るものだと思いました。

 ところで、ハンセン病の元患者さんの多くは、抵抗力の低い子供のころに感染の機会があり、長く発病しない期間の後に、大人になってから徐々に病気が出て、らい予防法に基づき国立療養所に入所することになり、老人になるまで何十年と入所しつづけることになったのです。

 このらいの予防法は、明治40年に制定され、昭和6年、昭和28年と若干の改正があったもののこの法の下に延々と強制隔離が強行され続けました。 患者さんの救済というよりも、社会からの完全な排除を目的とされ、ハンセン病予防は患者撲滅からという考え方が根強くあったからのようです。 治療は療養所でなければ受けられず、一度入所すると退所することはまずなく、子供も産まれないようにされていたとのこと。 時にはひどい制裁が加えられたこともあったとか。 文献を調べていけばいくほど日本社会の閉鎖性に胸がつまる思いです。

 昭和62年に国立ハンセン病療養所の所長が嘆願書を出しても、政府に改正の動きは全くなく、平成8年4月1日にようやく「らい予防法」が廃止されました。 この時、法律に「らい」の語は「ハンセン病」へ改正されました。しかし、法律や言葉は変わっても元患者の傷は現実であり続けたのです。 なお、らい予防法の廃止に当たっては岩手医大昆宰市名誉教授も皮膚科医として尽力されています。

 余談となりますが、私が小学生のころ、近所に顔全体を小さいころにヤケドして瘢痕となったご婦人がおりました。 その方はやはり悲嘆にくれていたそうですが、人徳のある先生から「医学が進歩して、きっともっと良くなるから頑張って生きるんだとよ」と励まされて、結婚もして今も健在であるとか。

 医者も患者も常に病気を通して人生の勉強をし合い成長し「災い転じて福となす」としたいものです。


『胆江日日新聞』2004年7月23日掲載より

◎ 足白癬(水虫)について

 水虫はムシによる病気ではありません。 白癬菌というカビの病気です。 したがって、カビの生えやすい梅雨時やムシムシした夏に多いのです。 さらに革靴を一日中履いたり、長靴や安全靴を使う機会の多い人は当然水虫にかかりやすくなります。 また女性のストッキングも通気性が悪く、カビの温床となります。

 水虫になると、足の裏に小さな水ぶくれが出来て痒くなったり、足のユビの間がジクジクしたりしてきます。 さらに古くなってくると、足のカワが厚くなってガサガサになりヒビワレの原因になったり、爪が濁って厚くなったりしてきます。 このような年季入りの水虫は、概して痒くなくなってきます。 そうなると「痒くないから水虫でない」と思っている人も案外多くいるものです。

 逆に、足が痒いと水虫だと考えて来院される方もいます。 手荒れならぬ“足荒れ”。 つまり足のタダレやカブレだったりする方もいます。 水虫だと思って水虫の薬をぬってカブレたり、水虫からバイ菌(細菌)が入って化膿させてしまい、足全体をまっ赤に脹らしてしまう人もいます。 また、水虫によく似た症状をとる掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)という少し難しい病気もあります。 足のトラブル即水虫ではありません。

 診断を決めるのに専門医は、水ぶくれの一部や剥がれかかったヒフをピンセットで取り、顕微鏡で白癬菌(カビ)の存在を確認します。 このような検査をしなければならないのは、見かけだけでは区別のつかない病気もあるからです。

 治療は初期のものであれば、抗真菌剤(カビを殺す薬剤)をぬるだけで充分です。 しかしチョットしたコツがあります。 まず広めにぬること。 次に根気よく毎日、見かけが治っても安心しないで最低3ヶ月はぬり続けることです。 治り難いもの、特に爪にまでカビが入って厚くなってしまったものには、飲み薬が効果的です。 現在、主要な飲み薬を大別すると、毎日服用するタイプのものと、月に1週間だけ集中的に服用して、それを何ヶ月かくり返すタイプのものの2つがあります。 患者さんの飲みやすさや、他に薬剤を服用しているか否かなどによって、どのタイプの薬にするかが決められます。 テレビのCMのおかげで、だいぶ水虫の飲み薬も有名になって、家族に促されて受診される爪水虫の患者さんも増えています。

 最後に、最近のトピックを1つ。 柔道家やレスリング選手の間で集団発生している、”格闘家白癬”と呼ばれている白癬症があります。 外国との交流試合を通じて感染を起こしたり、また、最近では外国から感染した人が、日本で試合や合同練習といった機会を通じて感染者を拡大させていっているとか。 これらの多くは、足より体の“タムシ”として発症します。

 同じようなカビの病気であっても、足では“水虫”、カラダでは“インキン・タムシ”と俗に呼ばれていますが、カビの種類(同じ白癬菌の仲間ではあっても)によって足に出来やすいものや体に多いもの、また頭や顔に特徴を示すものなど細かく見ていくといろいろな病気の型をとってきます。 もちろん足の水虫が体に感染してインキン・タムシになることもあるので、水虫は何んと言っても早目に治しておきましょう。 放って置いて家族から白い目で見られないうちに・・・・。